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前回、若年者の逸失利益の基礎収入に、全年齢平均賃金を使うかどうかは、30歳で明らかに傾向が変わることを説明しました。
独立して判断している裁判官の考え方がどうしてそのように統一されていくのかというと、裁判官の考え方に影響を与えるものがあるからです。
それを押さえておくことは、無用な争いを避けるために、当然、必要なことです。
まず、最高裁判決で判断が示された問題については、最高裁判決の枠組みを動かすことはありません。
これまでに話題にした問題でいえば、例えば、素因減額(→こちら)、逸失利益の中間利息控除の利率(→こちら)、示談後の追加請求(→こちら)などがありました。
交通事故だけを扱う専門部がある裁判所がありますが(東京地裁、大阪地裁、名古屋地裁など)、その専門部の裁判官が公表した考え方も、全国の裁判官の判断に影響を与えます。
その典型が、東京地裁の専門部の裁判官がまとめた『過失相殺率の認定基準』です。最近、改定版(全訂5版)が出たばかりです(→こちら)。
また、東京地裁、大阪地裁、名古屋地裁の交通集中部で協議し、まとめた「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」(判例タイムズ1014号)です。若年者の逸失利益の基礎収入については、この「共同提言」が、若年者を「おおむね30歳未満と解される。」としているのです。
さらに、新しい問題、難しい問題などについては、毎年、日弁連交通事故相談センター東京支部が、東京地裁の専門部の裁判官による講演を行い、それが講演録として、「赤い本」に掲載されます。そこで公表された考え方も、全国の裁判官に影響を与えます。例えば、脊柱変形の労働能力喪失率(→こちら)、外貌の醜状障害の逸失利益(→こちら)などがそうでした。
そして、これらの裁判所の考え方を基準化したものが、赤い本です。正式には、日弁連交通事故相談センター東京支部が編集する『民事交通事故訴訟・損害賠償算定基準』といい、毎年、改訂されます。最新版は、もちろん2014年版です。
まずは、赤い本で裁判基準を確認し、そこから裁判例(判決)や赤い本の講演録に読み進むというのが、交通事故の損害賠償に携わるものの常識となっています。