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共同不法行為者は、その一部にしか関与していなくても、全額の連帯責任を負うとされていますが、例外的に「寄与度」に応じて減額される場合があります。どのような場合に減額が認められるかを論じた書面(控訴理由書)です。
(1) 問題の所在
これまで検討したところから明らかなように,被控訴人らは,全損害について,共同不法行為者として連帯責任を負う。
そうすると,残された問題は,損害分担の公平の見地から政策的に減額を認める寄与度減額(減責)が認められるか否かである。
(2) 判例の動向
この点について,1960年代,交通事故が増加し,また,公害裁判が各地で提起される中で,共同不法行為の成立にわずかしか関与していない者に全額の賠償責任を負わせるのは酷にすぎるのではないかという問題提起がなされ,その責任を減額する理論として,下級審裁判実務において,寄与度減額の考え方が採用されてきた。
しかし,最近は,被害者救済のために共同不法行為者に連帯責任を負わせる民法719条の趣旨からして,寄与度減額を安易に認めるべきでないとする指摘がなされてきたところであり,ついに最高裁もそのような考え方に立つことを明らかにした。交通事故と医療過誤が競合した事案について,寄与度減額の考え方を適用し,5対5の寄与度分別を認めた東京高判平成10年4月28日判タ995号207頁を変更し,損害全額の連帯を認めた最判平成13年3月13日民集55巻2号328頁である。
以下,控訴審判決と最高裁判決を若干詳しく検討する。
ア 控訴審判決は,概ね次のとおり判示した。
被害者の死亡事故は,交通事故と医療事故が競合した結果発生したものであるところ,原因競合の寄与度を特定して主張立証することに困難を伴うので,交通事故における運転者の過失行為と医療過誤における医師の過失行為とを共同不法行為として,被害者は,全額の損害の賠償を請求することができる。しかしながら,個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し,その行為類型が異なり,行為の本質や過失構造が異なり,かつ,共同不法行為を構成する一方又は双方の不法行為につき,被害者側に過失相殺すべき事由が存する場合には,各不法行為者は,寄与度の分別を主張することができる。
イ これに対し,最高裁は,原審の判断を覆して,次のとおり判示した。
「本件交通事故により,Aは放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの,事故後搬入された被上告人病院において,Aに対し通常期待されるべき適切な経過観察がなされるなどして脳内出血が早期に発見され適切な治療が施されていれば,高度の蓋然性をもってAを救命できたということができるから,本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが,Aの死亡という不可分の一個の結果を招来し,この結果について相当因果関係を有する関係にある。したがって,本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから,各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。本件のようにそれぞれ独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解する理由はないから,被害者との関係においては,各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し,各不法行為者において責任を負うべき損害額を限定することは許されないと解するのが相当である。けだし,共同不法行為によって被害者の被った損害は,各不法行為者の行為のいずれとの関係でも相当因果関係に立つものとして,各不法行為者はその全額を負担すべきものであり,各不法行為者が賠償すべき損害額を案分,限定することは連帯関係を免除することとなり,共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとしている民法719条の明文に反し,これにより被害者保護を図る同条の趣旨を没却することとなり,損害の負担について公平の理念に反することとなるからである。」。
それは,異時的に順次競合した行為により,不可分の一個の結果を招来した共同不法行為(内田貴のいう「損害一体型」)について,被害者保護のため,損害額の限定を否定するものである(その理由を詳細に敷衍するものとして,三村晶子前掲書243ないし245頁)。
(3) 本件の検討
本件では,寄与度減額を認めると,被控訴人●●が事実上倒産しているため,控訴人が,その無資力のリスクを負うことになり,上記最高裁判決が危惧した被害者救済の趣旨の没却が,まさに現実のものとなる。
そうすると,本件においては,寄与度減額は認められるべきではなく,安易に寄与度減額を認める原判決は,判例に反しているというほかない。
なお,上記最高裁判決は,共同不法行為一般について寄与度による減額の可能性を一切否定したものとは解されていないが,例外的に寄与度減額が認められるのは,「被害者と加害者間の関係においても公平な解決といえる事情が認められるような限られた事案」である(三村晶子前掲書244頁)。しかし,本件にそのような事情がないことはいうまでもない。