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医療照会結果の位置づけについて

保険会社が一括対応を終了する(治療費の支払いを打ち切る)際、多くのケースで、保険会社は、一括対応終了時期が症状固定時期であると主張します。

被害者側としては、症状固定時期は、一括対応終了時期ではなく、最終の通院日であると主張し、争うわけですが、保険会社は、医療照会の結果を根拠として、上記のような主張を言ってきます。しかしながら、症状固定の判断をする上で、医療照会の結果がどれだけ参考となるかについては、疑問があります。

 

まず、作成者が誰なのか、医証に当たるのか、書面の性質やその位置づけが判然としません。以前扱った訴訟では、保険会社は、医療照会結果を書証として提出してきて、医証であると主張してきたことがありました。保険会社としては、医療照会の結果については、作成者が医師であると考えているのでしょう。

医証ということであれば、これは「診断書」なのでしょうか。医師法上の「診断書」に当たれば、医師は患者の求めがあれば、これを患者に開示する義務があります(医師法第十九条二項)。

この点、裁判例では、医療照会兼回答書が、個人情報保護法上の開示請求の対象となるか争われた例があります(静岡地裁令和2年3月6日判決自保ジャーナル第2074号168頁)。結果、個人情報保護法上の開示請求の対象に当たらないと判示されましたが、医師法上の診断書に当たるか否かについては、判断されていないため、よくわかりません。

仮に、医師法上の「診断書」に当たれば、医師は、同法第十九条二項に基づき、患者へ診断書を発行する義務があるので、わざわざ個人情報保護法を持ち出す必要もないことから、医師法上の診断書には当たらないことが前提なのかもしれません。

いずれにせよ、保険会社は、医療照会の結果については社外秘であると言い、基本的には被害者側に開示してくれませんので、医師法上の「診断書」とは考えていないのでしょう(稀に、交渉時でも開示してくれる担当者はいます)。

 

「診断書」か否かは措くとしても、医証に当たるとすれば、自賠責様式の診断書との関係が問題とはなります。

症状固定について争いとなっているということは、当然、被害者は、一括対応終了後も健康保険で通院を継続しているということです。

そうであれば、自賠責様式で、通院最終月の診断書が作成されていることが多いでしょうが、ここには、転帰欄の「治ゆ」に〇がついているはずです(転帰欄の記載の仕方については、別に記事(自賠責様式の診断書の転機欄)を書いていますが、「治ゆ」には症状固定の意味も含みます。)。また、後遺傷害診断書にも、症状固定日の欄に

は、終診日が記載されているはずです。

仮に、保険会社が、医療照会の結果を根拠として、一括対応終了の時期を症状固定時期であると主張するのであれば、終診日を症状固定日として作成された診断書(ないし後遺障害診断書)との間で、必然的に矛盾が生じます。

保険会社の立場からすれば、当該矛盾について、合理的説明(要は、終診に当たり作成された診断書よりも、通院途中で作成された医療照会の結果の方が、より信用性があることの説明)があってしかるべきですが、この点を合理的に説明できている保険会社は見たことがありません。

 

そもそも、医療照会に対する医師の回答は、あくまでも症状固定時期の見込みを回答しているにすぎないものであったり、暫定的かつ曖昧な回答が多いものです。記載内容自体から、直ちに症状固定日を推認できるような医療照会結果というのは、それほど多くありません。

また、保険会社の作為が介入しているため、ある意味当然と言えますが、質問形式自体も、保険会社有利となるよう誘導的です。

 

このような、医療照会結果は、保険会社が治療費の一括対応の期間を判断するための資料として利用されていますが、一括対応は、保険会社に義務付けられたものではなく、いわば保険会社のサービスで行っているものに過ぎないものです。

自社サービスである以上、一括対応を打ち切るか否かの判断も、保険会社の裁量によるところであり、その意味では、医療照会結果は保険会社の内部的な判断資料にすぎません。しかも、医療照会結果は社外秘の扱いとされ、交渉時には、被害者に対して開示されません(相手方に開示できない資料を根拠に主張すること自体が交渉のマナーとしてどうかと思いますが)。

一方で、治療期間及び症状固定日を含めた治療の相当性の判断とは、事故と治療との間の相当因果関係の有無の問題であり、保険会社内部の自社サービスの扱いに関する裁量的判断とは観点が異なります。

 

確かに、患者が医師の診断を受け、その後、最新の診断書が損保会社の手元に届くまでの間は、最新の診断書の内容が確認できない以上、一括対応という自社のサービスを継続するか否かの判断にあたり、医療照会結果を参考とすることも、その限りで理解できなくはありません。

しかしながら、終診後に、治療の相当性を判断する場面では、診断書が全て揃っているのですから、その一次的な根拠資料は、主治医師作成の「診断書」ないし診療録となるでしょう。

それぞれの性質を踏まえれば、一般的な実務感覚からすれば、医療照会の結果よりも、「診断書」(後遺障害診断書や診療録)の記載の方が、より証拠価値が高いのではないかと思われます。

 

そういうわけで、打ち切り日を症状固定日とする主張に、医療照会の結果を根拠とすることについては、反対です。症状固定の立証(ないし反証)は、より直接的に、「診断書」や診療録の記載を根拠とすればよいのです。