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弁護士原幸生による記事です。
コロナ渦における外出自粛要請のなか、全国各地のDJがオンライン上でDJ配信を行い、ストリーミングフェスを開催するイベントが盛況と聞きます。著作権の記事が続いていますし、せっかくなので、今回はDJ配信と著作権の関係についても整理したいと思います。
ご存じのように、音楽は著作権で保護されています。音楽の著作権については、その多くが、著作権管理事業者により集中管理されており、ご存じのように最大手がJASRACです(NexToneなどもあるのですが、JASRACが圧倒的なシェアを誇っているため、本記事では著作権管理事業者=JASRACという前提で話しを進めます)。
一言で著作権といっても、その利用態様によって、支分権ごとに規定されており(著作権法21条以下)、DJ配信の場合に問題となりそうな著作権も複数考えられます。また、著作権だけではなく、著作者人格権や著作隣接権といった権利も問題となるでしょう。
思いつく限りで挙げてみましたが、以下のような権利が問題となると思われます(今回はJASRACとの間の権利処理が問題となり得る、下線部の権利について説明します)。
〇著作権
公衆送信権 複製権 翻案権
〇著作者人格権
同一性保持権
〇著作隣接権
録音権(実演家) 送信可能化権(実演家) 同一性保持権(実演家)
複製権(レコード会社) 送信可能化権(レコード会社)
オンライン配信を行う場合、公衆送信権の権利処理が必要です。なお、JASRACと利用許諾契約を締結しているサービス(twitch、youtube等)であれば権利処理済みなので、当該サービスを利用して配信する場合は、別途権利処理をする必要はありません。ただし、利用方法によっては、別途の手続きが必要となるため、フローチャートで確認することをお勧めします。
サービス一覧 → 利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧
手続きのフローチャート → 動画投稿(共有)サイトでの音楽利用
著作権法上の複製とは「有形的に再製する」ことを言います(法2条1項15号)。DJの演奏方法としては、音源データを書き出したUSBメモリを使用するか、PCを利用したHID接続、MIDIコントローラー接続、もしくはDVS接続による方法が主流と思われます。
いずれの方法も、リッピングやダウンロードによりHDD等へ音源をデジタルデータとして保存する行為を伴いますが、これらの行為は、有形的再製としての複製に当たります。
そうすると、著作権者であるJASRACとの間で複製権について権利処理する必要が出てきそうです。JASRAC使用料規定によれば、非商用複製でも1曲200円の使用料ですから、1回のイベントでもそれなりの金額になります(CD・テープ・ICなど録音物の製作 JASRAC)。実務上、DJ演奏のたびに、複製権の権利処理が課されているようなケースは聞きませんが、仮に、複製権の権利処理が必要となれば、DJ時のデジタルデータ利用は相当程度萎縮すると思われ、著作権法の目的である「文化の発展に寄与」するのかは疑問があるところです。
私見になりますが、2020年現在、大多数のDJがデジタルの音源データを利用していると思われ、仮にリッピング等の複製行為を封じられると、DJ演奏ないし公衆送信への支障は小さくないでしょう。音源の複製は、演奏ないし公衆送信の前提に過ぎず、これを演奏や公衆送信と独立した行為と評価し、演奏や公衆送信の権利処理とは別に、重ねて複製権の権利処理も課すことには、やや違和感があります。
このような複製行為は、演奏権に関する権利処理(店舗とJASRACとの間の包括契約)ないし公衆送信権に関する権利処理(各配信サービス事業者とJASRACと間の利用許諾契約)の中で、既に評価し尽くされており、少なくとも黙示の利用許諾があると考えることはできないでしょうか。
裁判例も調べてみましたが、DJ演奏を前提とした複製行為の法的性質について判断したものは見当たりませんでした。類似のものでは、美容室店舗内で、客に聴かせるBGM用に、デジタルデータとして保存した音源を携帯音楽プレーヤーで再生していたというケースを見つけました。意外にも、このケースでは、演奏権侵害の主張はなされているものの、複製権侵害に関しては特段の請求がなされていません(札幌地裁平成30年3月19日判決)。仮に、JASRAC寄りの立場に立てば、このケースでは複製権侵害を主張してもいいような気がしますが、実際はそのような主張はしていないようです。裁判例も少ないため、JASRACがDJ演奏を前提とした複製についてどのように考えているのかは、よく分からないというのが正直なところです。
複製権について、長々と説明しましたが、オンライン配信をする場合は、さらにもう1つ、別の複製行為についても問題となります。
DJ配信する際、ネットワークへ接続しアップロードする前提として、音声データを配信サービス提供者の管理しているサーバに蓄積することとなりますが、これも有形的再製であるため複製に当たります。そうすると、ここでも複製権の権利処理について問題となります。
既に述べたように、JASRACと利用許諾契約を締結しているサービス(twitch、youtube等)であれば公衆送信権については権利処理済みです。公衆送信を行う場合、①サーバに蓄積する行為→②ネットワークに接続する行為(アップロード行為)→③インタラクティブ送信する行為という、3つの段階を踏むこととなります。複製に当たる①の行為は、公衆送信に当たる②及び③の行為の前段階の行為であり、公衆送信を行うためには必ず必要となる行為です。
各種配信サービス事業者が、JASRACとの間で、公衆送信にかかる権利処理をしたということは、①から③の一連の行為について権利処理したと解釈するのが合理的です。そうすると、上記サービスを利用して配信するのであれば、別途①の複製権の権利処理をすることまでは不要と考えられます(公衆送信権にかかる利用許諾契約の中に①の複製権の権利処理も含まれていると解釈して差し支えないと思われます)。
ただし、JASRACのフローチャートによれば、一部のケースでは、複製権の権利処理が求められるようですので、適宜確認することをお勧めします。
問題となる権利はまだまだありますが、長くなったので続きは次回以降に。