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2020/05/13
弁護士 原幸生による記事です
コロナ渦における外出自粛要請のなか、先日、小説の読み聞かせをオンラインで配信する試みが注目されているという内容の記事を見かけました。
そこで、今回は、オンライン朗読の著作権関係の整理をしたいと思います。
まず、「小説」は「言語の著作物」に当たりますから(著作権法10条1項1号)、著作権者の許諾無く、「公に口述する」ことはできません(法24条)。
たとえば、子ども会などで、不特定多数の子どもらに、児童小説の朗読会を行うような場合は、公に向けて口述することとなるので、口述権侵害の問題が生じます。
ただし、著作権法では例外規定を設けており、「営利を目的とせず」に「聴衆又は観衆から料金を受けない」のであれば、著作権者の許諾は不要とされています(法38条1項)。
したがって、上記のような場合も、無償の朗読会であれば(通常は無償で行っていると思います)、著作権者の許諾なく自由に行ってかまいません。
それでは、そのような読み聞かせを、オンライン上で配信する場合、同じように無償で行えば、許諾は必要ないのでしょうか。
結論から言えば、この場合は、口述権ではなく、「公衆送信権」(法23条1項)及び「複製権」(法21条)が問題となり、たとえ無償であったとしても、著作権者の許諾無く配信することはできません。
まず、口述権の問題とはならない理由ですが、これは単純な話で、著作権法の条文上、「口述」の定義から、「公衆送信」の場合が除外されているからです(法2条7項括弧書)。
そうすると、小説の読み聞かせをオンラインで配信する場合は、形の上では音読=口述をしてはいるものの、これは、著作権法的には口述には当たらず、公衆送信をしていることとなります。
そして、ここが重要ですが、公衆送信の場合は、口述と異なり、無償利用時に許諾不要となるような例外規定はありません。
また、なぜ「複製権」が問題となるかについてですが、これはかなり細かい話になり恐縮ですが、以下のような理由によるものです。
小説は文字情報が可視化されている著作物ですから、それを印刷コピーする行為や書き写す行為が複製となることは、感覚的には容易に理解できるかと思います。
一方、小説を朗読して音声再生可能な状態とする行為についても、有形的に再製する以上、著作権法上の複製に当たります。
聴覚に訴える朗読は、可視的な小説とは表現形式が異なるので、やや違和感があるかもしれませんが、著作権法上の複製というためには、表現形式の異同は問われていないので、小説の文字情報を音声再生可能な状態に固定化する行為も、有形的な再製である以上は「複製」に当たるのです。
そして、オンライン配信の際のどのような行為が、上で述べたような有形的な再製となるかについては、以下のような説明になろうかと思います。
小説の読み聞かせをオンライン配信するには、実際に発声した音声を、PC内蔵ないし外付けのマイク機器で集音し、PC内部でいったんアナログ音声からデジタル音声データへ変換処理した上で、ネットワーク接続を介し、配信のために用意されているサーバ(たとえばyoutubeであればGoogle社が管理委託しているサーバとなるでしょう)へ蓄積することとなります。
具体的には、このサーバへの蓄積行為が、複製に当たります(なお、サーバ蓄積後のアップロード行為等は既に述べた公衆送信の範疇です)。
そして、複製権の場合も、口述権とは異なり、無償利用時に許諾不要となるような例外規定はありません(私的利用であれば許諾不要となる例外規定はありますが公衆送信目的でサーバへ蓄積する行為は私的利用とは言えないでしょう)。
かなり長い説明となりましたが、以上のような理由により、小説の朗読をオンライン配信する場合は、著作権法上の「公衆送信権」及び「複製権」の問題が生じ、著作権者の許諾がが無ければ違法ということになります。
ただし、この場合の侵害主体は、配信者ではなく、動画投稿サービスを管理運営する会社ではないかという考え方もあり、裁判実務上はそのような考え方がやや優勢のように思います(このような考え方に対しては、侵害主体の範囲が不当に拡張するとの批判もあるところです)。
なお、著作権には、保護期間というものがあります(法51条以下)。
保護期間の過ぎた著作物(パブリックドメイン)は、著作権フリーとなるので、著作権者の許諾なく使用できます(ただし、保護期間の計算は、複雑な規定の多い著作権法の中でもとりわけ複雑です)。
たとえば、青空文庫にある作品はほとんどが保護期間の過ぎた作品ですから、このような作品であれば著作権者の許諾無くオンライン朗読が可能ということになります。
この点については、青空文庫の公式HPに、Q&A方式で掲載されているので、参考にしてみてください。