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交通外傷により発症した変形性関節症

2011.10.31に続いて、交通外傷により発症した変形性関節症の後遺障害の程度を論ずる準備書面の抜粋です。

 下記準備書面は,あくまで一例です。
 案件によって,書面内容は変わりますので,詳しくは,直接お問い合わせ下さい。

 お電話でのお問い合わせは→東京:03-5575-1400 長崎:095-820-1500
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2 被告の主張の医学的前提

被告は,原告の後遺障害が「1手のひとさし指を含み3以上の手指の用を廃したもの」(8級4号)にあたるとの主張を争い,労災保険の認定基準(『労災補償障害認定必携』)の適用を縷々主張するが,その主張は次の医学的前提に立脚している。

① 本件で問題となる労災保険の認定基準における関節痛は,画像所見から痛みの原因が明らかでなければならないが,原告の左手の第5指には特に異常は認められず,第2指及び第4指のPIP関節にも関節裂隙の狭小化が認められるというに過ぎず,健側の関節に障害を残すとはいえない。
② 原告の患側である右手指の関節可動域のほとんどがめざましく改善しており,原告の関節痛は,医学的に見て,自動運動が不可能とまではいえず,他動運動により関節可動域を測定すべきである。

その問題点は,変形性関節症における関節痛が,画像所見から明らかになるとする点,関節可動域の特定の2時点の変化(改善)を本症の改善と見ている点にある。
以下,標準的な整形外科学の教科書(国分正一ほか監修『標準整形外科学〔第10版〕』医学書院,2008年)より,これら医学的前提の誤りを明らかにする。

3 変形性関節症の画像所見と症状
確かに,変形性関節症のX線変化として,関節裂隙の狭小化,更に消失,関節辺縁の骨棘形成,軟骨下骨の硬化像等が出現する。
しかしながら,疼痛や可動域制限といった「関節症状の程度とX線上の変化の程度とは必ずしも一致しない」(前掲書234頁)。

それは,まず,疼痛の発現機転として次のようなものが考えられており(同書234頁),これは,X線上の変化として表れない機転も含んでいるからである。
① 罹患関節の軟骨下の骨髄静脈のうっ血
② 関節の変形や拘縮に伴う関節周囲の腱・靱帯の異常緊張,筋腱付着部炎
③ 骨棘など変形突出した骨軟骨表面と滑膜・関節包の摩擦,関節包の異常緊張,二次的滑膜炎
④ 痛みに対する反応性筋緊張による疼痛の惹起

また,可動域制限(運動制限)についても,その発現機転として次のようなものが考えられており(同書234頁),やはり,X線上の変化として表れない機転も含んでいる。
① 初期には反応性の筋緊張,二次的炎症による関節包の肥厚・繊維化による軟部組織の拘縮が主体である。
② 進行すると,関節面の変形や不適合による運動制限が加わる。

にもかかわらず,労災保険の認定基準における「関節を可動させると我慢できない程度の痛みが生じるために自動では可動できないと医学的に判断される場合」を画像所見がある場合に限定する被告の主張の誤りは明白である。

4 関節可動域の変化と本症の改善
変形性関節症は,退行性疾患であり(前掲書232頁),「変形性関節症の治療の原則は,症状の軽減と関節機能の維持または改善」にとどまり(同書235頁),根治的な治療法はない。
すなわち,疼痛の軽減や関節可動域の改善があったからといって,退行性疾患である変形性関節症が治癒,軽快するものではない。
しかも,疼痛は「運動開始時の痛み(starting pain)と,安静で軽快する疼痛が一般的である。」(前掲書234頁)とされており,一定しているものではない。
したがって,関節可動域測定時の状況によって,疼痛や関節可動域が異なることはあり得るのであって,ある時点での可動域が改善したからといって,本症が治癒,軽快しているものではない。継続的に関節可動域の経過を見て,どの程度の関節可動域の制限があるかを評価しなければならないのであって,特定の2時点の関節可動域を比較し,原告の右手指の関節可動域のほとんどがめざましく改善していると評価する被告の主張の医学的誤りは明白である。