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工学鑑定(工学的意見書)は科学的か

最近はあまり目にしませんが、以前は、むち打ち損傷について、損保会社側から工学鑑定(工学的意見書)がよく提出されました。
交通事故を工学的に解析すると、むち打ち損傷は発症しないという意見書です。
事故車両の損傷の状況(へこみ方など)から、衝突時のどのくらいの速度の変化があったのかを計算し、それではむち打ち損傷は発症しないと結論付けるものでした。

しかし、ここ10年くらい、工学鑑定(工学的意見書)を見ることはありませんでした。
それは、工学鑑定(工学的意見書)は信用できないというのが、裁判官の共通の理解になったからでした。

1990年、当時の東京地裁専門部の裁判官は、こんなふうに語りました。
「自動車工学に基づく意見書については、これも決まって保険会社側に有利な意見、すなわち、『当該交通事故を解析した結果、むち打ち症は発症しない』という意見書が提出される。これらの工学意見書を書く人には、名前を聞くだけでどういう内容かが分かる人もいる。というのは、書いてくる意見書というのは、定型文書のほんの一部を変えた程度のものだからである。保険会社側から提出されるこれらの工学的意見書の信頼性には、かなり疑いがあるのではないかと思われる。」(原田卓裁判官)

2001年、当時の東京地裁専門部の裁判官は、こんなふうに語りました。
「今日では、裁判所の工学鑑定に対する不信感が広く知れ渡ったためか、むち打ち症の事件で工学的意見書が提出されることは、ごく稀となっています。」(河邉義典裁判官)

なぜ、こんなことを書くかというと、先日、事故車両の損傷の痕跡から、事故の状況を再現しようとする損保会社の言い分を目にしたのですが、科学的なようで、全く科学的ではないと思い、以前のむち打ち損傷の工学鑑定(工学的意見書)のことを思いだしたもので。