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医療過誤などで,被害者が高齢であったり,重い病気にかかっていたことなどを理由に,損害が減額されることを主張される場合があり,確かに,そのような裁判例も存在します。しかし,命の価値は変わらないのではないかというのが,ここでの問題です。
(1) 原告の素因による逸失利益,死亡慰謝料の減額
被告は,Xが○○に罹患していたことから,損害を争う。
この点については,仮に,被告の主張するように,Xに適切な医療が施されても平均余命まで生存できない素因があったとして,それが損害の評価にどのように影響するかを検討したことがある(原告第1準備書面第3の3(3))。即ち,逸失利益については,延命される期間しか認められない可能性があるが,原告は,本件において逸失利益の請求はしていないのであり,原告が本件で請求する損害は,死亡慰謝料を除き,素因により減額される余地のないものである。
ただ,死亡慰謝料については,確かに,減額を認める下級審判決もある。この点を検討した塩崎勤「医療過誤訴訟における損害賠償と素因減額」判例時報1905号8頁によれば,例えば,被害者本人の慰謝料を1000万円,両親の慰謝料を150万円ずつ認定した横浜地裁平成13年10月31日判決・判例タイムズ1127号212頁,被害者本人及び遺族の慰謝料を合わせて1800万円と認定した名古屋地裁平成15年6月24日判決・判例タイムズ1156号206頁がある。
しかし,塩崎前掲書によれば,下級審判決の傾向は,「病人や障害者であっても極めて低額な認定をしないというのが一般的傾向であろうと思われる。」(同書9頁)と総括される。「疾患によって健常者と同じように稼働できない人であっても,あるいは障害,高齢のために余命がそれほど期待できないという人であっても,人間としての主観的価値,あるいは,生命の本質というものにはそれほど差異はなく,したがって,生命そのものを奪ったことに対する慰謝料としては,病人や老人であっても,健常者とそれほど違いはないと考えられる。」(同書9頁)のである。
(2) その余の損害項目
塩崎前掲書によれば,逸失利益や死亡・後遺症慰謝料のみならず,治療費,入院雑費,介護費用,葬式費用などについても素因減額している下級審判決があるとのことであるが,「葬式費用などについては,既存疾病などの素因の存在によって特に増額したということは考えられず,素因減額の対象とはなり得ないというべきであるから,どのような損害項目について素因減額すべきかどうかについては,もう少しきめ細かく検討して対処する必要があろう。」(同書9,10頁)との批判があるところである。
本件について,素因減額があるとしても,それは死亡慰謝料だけである。