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交通事故のむち打ち損傷について、低速度の軽微な衝突だから、障害は残らないはずだという主張がなされることがあります。それは正しくないということをまとめた書面(準備書面)です。
2 低速度衝突における工学鑑定の可能性(最近の研究から)
従来の低速度衝突における工学鑑定は,車体変形量から有効衝突速度を推定し,有効衝突速度から加速度を導き出して,それがむち打ち損傷の閾値(無傷限界値)に満たないことを論証しようとするものであった。
しかし,この方法論に対しては,最近の事故解析共同研究会の研究結果(1994年12月)から,次のような根本的な疑問が呈されている(羽成守・藤村和夫著『検証むち打ち損傷-医・工・法学の総合研究-』による。)。この研究は,むち打ち損傷に否定的な工学,医学鑑定について,その問題点を厳しく指摘した1990年の東京三弁護士会交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」判タ737号4頁に対する対応を迫られた社団法人日本損害保険協会が委託して行ったものであるが,その結果は,従前の鑑定に見直しを迫るものとなった。
① 低速度衝突においては,乗員挙動に影響を与えるもっとも重要な因子は,有効衝突速度から導かれる車体加速度の大小ではなく,車体の速度変化である。
② しかし,事故後の現場の状況,資料から,衝突時の速度変化を求める方法は,確立していない。それは,車種ごとの衝突速度と車体変形量の相関関係が実験により定量化されていないからである。
③ むち打ち損傷の閾値(無傷限界値)論は誤りであり,乗車姿勢,衝突態様等により,たとえ低速でも,受傷の可能性がある。なお,その場合,頚部の過伸展,過屈曲がなくても,むち打ち損傷は発症する。
上記の研究は,低速度衝突によるむち打ち損傷に関する最近のもっとも重要な成果であって,その研究結果をふまえない鑑定ないし意見は,現在では,およそ信頼に値しない。