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建築紛争における慰謝料

 財産的損害については、慰謝料は認められないとされていますが、建築紛争については、慰謝料が認められる場合があります。地すべりのケースについて、この点を論じた書面(控訴理由書)です。

(2) 建築紛争における慰謝料
 そこで,まず,地すべりによる建物の傾斜について,どのような場合に,どのような事情を考慮して慰謝料が認められるのかを概観する。
 この点については,最近,欠陥住宅を中心とした建築紛争における損害の1論点として,検討が進んでいるところである。例えば,研究者によるものとして,松本克美の「欠陥住宅被害における損害論」立命館法学280号1頁(2001年),「請負人の瑕疵担保責任に基づく欠陥住宅の建替費用請求の可否」法時75巻10号101頁(2003年),「欠陥住宅訴訟における損害調整論・慰謝料論」立命館法学289号64頁(2003年。以下,松本克美前掲書として引用)の諸論文,裁判官によるものとして,濱本章子・田中敦「建築紛争における損害について」判タ1216号39頁(2006年)がある。また,取引関係一般において,財産的損害の賠償と並んで慰謝料請求が認められる理論的根拠を検討する窪田充見「取引関係における不法行為-取引関係における自己決定権をめぐる現況と課題」法時78巻8号66頁(2006年)もある。
 このうち,濱本章子らは,本論点を次のようにまとめる(濱本章子ら前掲書44頁)。

「欠陥住宅被害については,広く慰謝料を認めるべきであるとの意見もあるが,物的損害に対して一律に慰謝料を認めることは相当ではなく,これを認めるためには,あくまでも瑕疵があることにより特に強い精神的苦痛を受けたことが必要であろう。もっとも,多くの一般購入者にとっては,建物は「一生に一度の買い物」であり,新居に対して大きな期待を持ち,日常の生活の基盤として生活を始めたものと考えられる。それだけに,建物の瑕疵によってこうした期待が裏切られたことによって受ける苦痛は決して看過することはできず,ときには建築瑕疵を巡る紛争を契機として,家庭内に深刻な不和を招き,重大な精神的苦痛を被ることも十分考えられる。こうした事情は,この問題を考えるに当たって考慮すべきであろう。」

 また,松本克美は,欠陥住宅訴訟で責任が認められた裁判例のうち,慰謝料が請求された裁判例49件(平成14年11月までのもの)を分析し,次のように総括する(松本克美前掲書73頁以下)。
・ 慰謝料請求を認容した裁判例は36件(73%),棄却した裁判例は13件(27%)である。
・ 慰謝料を認容した裁判例のうち,もっとも多いのは100万円である(12件)。また,認容額が高額化している傾向がある。例えば,高額の認容例として,900万円(神戸地判平成14年11月29日判例集未登載),480万円から510万円(東京地判平成13年6月27日判時1799号44頁及びその控訴審東京高判平成13年12月26日判タ1115号185頁),250万円(松山地判平成14年9月27日判例集未登載),200万円(大津地判平成8年10月15日判時1591号94頁,和歌山地判平成12年12月18日判例集未登載,東京地判平成13年1月29日判例集未登載,京都地判平成13年8月20日判例集未登載)がある。
・ 財産的損害を多く認定している裁判例の方が,慰謝料認容率が高い。
・ 慰謝料肯定裁判例が斟酌した事由として,次のものが指摘できる。
 A 被害の特質・程度
 A-1 不快・不安な生活の継続
 A-2 瑕疵の程度
 A-3 安全性
 A-4 瑕疵の残存可能性
 A-5 安心して快適で平穏な生活を送る期待の侵害
 A-6 夢の破壊
 B 加害行為の悪質性
 C 売主・請負人等の対応の悪さ
 D 証明されない財産的損害の補完

(3) 本件の検討
 本件についても,前記松本克美が慰謝料肯定裁判例から抽出した斟酌事由が認められる。
A 即ち,まず,前記A「被害の特質・程度」については次のとおりである。
A-1 本件工事が行われ,地すべりが急速に進んだ●●●●年●●月以降,既に5年余を経過するのに,本件土地の地盤沈下,本件建物の傾斜は継続しており,その間,控訴人家族らは,床の傾斜,窓や建具の開閉困難など各種の不具合により,快適な居住を得ることができず,日夜不快感に悩まされ続け,また,地すべりの進行への不安感を抱き続けてきた。
A-2 その瑕疵が重大であることは,原判決が本件建物及びその敷地の改修のために●●●万円もの費用を要すると認めたことからも明らかである。
A-3 また,幸い,人身被害は発生していないが,更に本件土地の地すべりが進み,本件建物の傾斜が進行するばかりか,ついには倒壊するかもしれない危険があった。
A-4 本件土地の地すべりは,現在,進行していないようであるが,今後,本件土地及びその周辺の地盤をいじったり,建物を建てたりした場合には,応力バランスが崩れ,地すべりが進行する可能性があることは,鑑定書も指摘するところである。
A-5,6 その結果,控訴人家族らは,安心して平穏な生活を送る期待を侵害されており,また念願の自宅を建設したものの,地盤沈下と建物の傾斜に悩まされ,その夢を奪われた。
B 次に,前記B「加害行為の悪質性」についても,土木・建築の専門家である被控訴人らが,地すべり対策を全くとることなく施工するのは,悪質というほかない。
C さらに,前記Cの本件工事による地すべり発生後の被控訴人らの「対応」をみても,交渉,調停,訴訟の各経過において,被控訴人ら自らが「裏面ブロック切取」,「裏面切取」,「法面整形」,「押え盛土」と認める工事を軽微な工事と言い張り,その地すべりの原因の調査についても協力しようとしない不誠実なものであった。
D なお,前記Dについて,庭植木等撤去,復旧費を認めることができなかったとしても,慰謝料で考慮されるべきことは,前記1(2)で触れたところである。
 そうすると,本件について,慰謝料が認められるべきであり,その額は,多くの裁判例が認める100万円を下ることはない。