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損害一体型の共同不法行為

 複数の者の加害行為が重なって一つの損害が発生した場合、複数の者がそれぞれ全部の責任を負うとされる場合があります。最初の工事と後の工事が重なって、地すべりが起こった場合に、この点を論じた書面(控訴理由書)の抜粋です。

(1) 損害の一体性
 仮に,控訴人の請求する損害に,当初造成工事によるものが含まれるとして,次に,控訴人が請求する損害を当初造成工事によるものと本件工事によるものに区分,特定することができるかが問題となる。
 そこで,本件についてみれば,仮に,当初造成工事によって損害の一部が発生していたとしても,当初造成工事と本件工事が競合して,一個の不可分,渾然一体となった地すべりによる損害を構成しているのであって,それを区分し,特定することなどできるはずがない。その事情は,原判決も,「本件土地及び建物に発生した亀裂,石組みのすき間の発生及び拡大,建物の傾き,建具の不具合など地すべり被害のうち,どれが本件工事前に発生していたもので,どれが本件工事によって発生拡大したものであるのかを確定し,本件工事によって発生及び拡大した被害を金銭的に評価することは容易ではない」という限りで認めるところである(原判決20頁)。

(2) 「損害一体型」の共同不法行為
 そして,損害が不可分であれば,共同不法行為が成立し,被控訴人が,当初造成工事と本件工事の競合による損害の全てについて連帯責任を負うことに争いはない(③)。内田貴のいう「損害一体型」の共同不法行為である(内田貴『民法Ⅱ』491頁以下(1997年))。なお,後に言及する最判平成13年3月13日民集55巻2号328頁(後記6(2)イ)も,この類型に共同不法行為の成立を認めている。
 もっとも,当初造成工事の原因力の程度によっては,被控訴人の共同不法行為の成立について,若干の理論的検討が必要である。
 即ち,まず,当初造成工事によっても,大規模な地すべりが起こり,本件と同様の損害が生じたとすれば,いわゆる択一的競合(多数者の行為のいずれもがそれだけで損害を発生させる原因力を持ち,その誰か一人の行為によって損害を発生させたことは明らかであるが,どの行為者の行為によるものであるか不明である場合)として,民法719条1項後段により,被控訴人も全損害について連帯責任を負う(四宮和夫『不法行為』792頁(1985年))。
 次に,当初造成工事によっては,本件の損害のような大規模な地すべりが発生することはなかったとすれば,択一的競合ではないが,当初造成工事と本件工事とで損害の原因となった程度が不明確であるとして,民法719条1項後段の類推適用により,被控訴人も全損害について連帯責任を負う(四宮和夫前掲書796頁。なお,民法719条1項後段の類推適用について,冨上智子「複数加害者関与事故の損害賠償における諸問題」佐々木茂美編『民事実務研究Ⅰ』74頁注10(2005年)参照)。
 よって,仮に,控訴人の請求する損害に,当初造成工事によるものが含まれているとしても,地すべりという損害は不可分,渾然一体となったものであって,被控訴人は,民法719条1項後段の適用又は類推適用により,全損害について責任を負う。