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スクリーンショットは著作権法違反?

弁護士原幸生による記事です。

1 改正著作権法

 近年、デジタル化・ネットワーク化の進展に対応するため、毎年のように著作権法が改正されています。最新の改正は、2021年改正がありますが、これは来年の1月1日からの施行となります。

 なお、2020年にも著作権法が改正されていますが、これは既に施行済みです。

 2020年改正の改正点はいくつかあるのですが、大きな改正としては、リーチサイト及びリーチアプリの運営・提供行為、侵害コンテンツへのリンク等提供行為が、著作権等を侵害する行為とみされ,民事措置及び刑事罰の対象とされました。

 リーチサイト・リーチアプリとは聞き慣れない言葉ですが、著作権侵害コンテンツへのリンク情報等を集約・誘導するサイトやアプリのことで、具体的には以前に海賊版サイトとして話題になった「漫画村」等がそれに当たります。また、ユーザー側への規制として、このようなサイトにある著作権侵害コンテンツをダウンロードすることは違法になりました。

 いずれの規定も海賊版対策として新たに法制化されたものですが、これについては、既に、2020年10月1日から施行されています(なお、同年11月には、改正法の施行以降、初の逮捕者出ています。)。

 このほか、2021年1月1日から施行されましたが、違法にアップロードされた著作物のダウンロードも全面的に規制されるようになりました。

2 スクリーンショットは違法?

 たとえば、SNS(インスタやツイッター等)を利用する際、他人の投稿をスクリーンショットで保存することは、日常的によくあることです。芸能人の投稿した写真や画像を保存したり、気に入った画像を友人へ見せたり、保存した画像を自身のSNSで投稿するためであったり、目的は様々でしょうが、他人がアップロードした画像データを、自身のスマートフォン等へ保存する行為は、普通に行われています。

 一方、SNSにアップロードされている写真や画像については、投稿者が、いちいち権利者の許可を取っていないことも多いでしょう。SNS上には、著作権者に無許可でアップされている写真や画像データも多くあります。

 そうすると、今回の改正で、違法アップロードされた著作物のダウンロードも違法とされたため、これまで日常的に行われてきた保存行為が、著作権法違反になるのではないか、という懸念がありました。この点については、法改正前の段階でかなり議論があったのですが、結論としては、このような行為が全て違法となるものではありませんので、以下で説明します。

3 私的利用目的の「複製」は合法

 前提の話ですが、著作権法は様々な著作物を保護しており、小説は「小説の著作物」、音楽は「音楽の著作物」、広告や漫画は「美術の著作物」、写真は「写真の著作物」、ドラマやアニメ・ゲームは「映画の著作物」として保護されています。そしてこれらは全て、デジタルデータとして保存可能なものです。音楽は、MP3などで保存されるのが当たり前となっていますし、ドラマ等の映像はレコーダーで録画が可能です。写真は、デジカメやスマホで撮影して、jpeg等で保存されるのが一般でしょう。小説や漫画も、容易にPDF化できます。

 著作物をこのようなデジタルデータとして保存する行為は、著作権法上の「複製」に当たりますが、著作権法では、権利者に許可をとらずに「複製」するとことは違法とされています。

 しかし、これでは違法となる範囲があまりにも広がりすぎることとなります。個人的に利用するための複製や、家庭内の限られた範囲の複製であれば、権利者へ与える影響は軽微ですし、侵害の把握も困難でもあるため、仮に、これを違法としても実効性は乏しいものです。

 そこで、著作権法では、私的利用目的の複製については、権利者の許可を不要としています。

4 私的利用目的の「複製」でも違法となる場合

 ところが、私的利用目的であれば、あらゆる複製を全て無許可で行ってよいのかと言えば、そう簡単でもありません。

 現在は、科学技術の発達とインターネットの普及により、特殊な機器や技能を持っていない一般人でも、ネット上にアップロードされたあらゆる著作物を、デジタルデータとして容易に保存(複製)することが可能となりました。

 デジタルデータはほとんど劣化しないので、複製物とはいっても、元の著作物と同等の利用が可能です。こうなると、本来であればしかるべき対価を支払い享受すべき著作物が、容易に複製され、不特定多数の者に無償で利用されかねません。

 このような事態に対処するために、特に被害の大きかった「音楽」と「映画」の著作物については、権利者に無許可でアップロードされたコンテンツをダウンロード(=複製)する場合は、たとえ私的利用目的のダウンロードであっても、違法となり(2009年改正)、さらには刑事罰も科されるようになったのです(2012年改正)。

 無論、コンテンツを違法にアップロードした行為者は、その時点で私的利用目的を超えた「複製」をしていることとなるため、アップロードした者を適切に処罰すればよいのであって、私的利用目的でダウンロードした者に対してまで刑事罰を科す必要はないのではないか、という議論もあり得るところです。この点は、確かに一理ありますが、それでは、違法著作物の流通に歯止めがかからないとの価値判断により、刑事罰を科すような改正に至ったものと思われます。

5 違法となる対象の拡張

 そして、今回の2020年改正によって、「音楽」及び「映画」だけでなく、漫画や写真等を含めた、著作物全般にもその対象が広がりました。これは、海賊版規制の必要性が高まり改正に至ったものですが、改正案の出た当初から、日常的に行われているスクリーンショット等までもが違法となるのは、広すぎるのではないかとの指摘がありました。

 最終的には、軽微なものは対象外とする内容が盛り込まれたので、結論としては、SNS上の投稿をスクリーンショットで保存する程度の行為であれば、違法となることはありません。また、刑事罰の対象となるのは、正規版が有償で提供されているコンテンツを、反復継続してダウンロードした場合に限るとの限定も加えられました。

6 まとめ

 著作物を無許可で「複製」する行為は違法ですが、私的利用目的の場合は例外として合法とされていました。

 その後、2009年改正により、違法にアップロードされた「音楽」と「映画」のコンテンツについては、私的利用目的のダウンロードであっても、違法となるとされました。

 そして、2020年改正では、その対象が広がり、「音楽」や「映画」に限らず、著作物全般についても、違法アップロードコンテンツを私的利用目的でダウンロードする行為は違法となりました。ただし、その場合にも、軽微な侵害は合法となるとされ、スクリーンショット程度の軽微な複製であれば、それが権利者の許可無くアップロードされていたコンテンツを対象とするものであっても、違法となることはありません。

 このように法改正が続いたため、対象の条文は、原則と例外が入り組んだ難解な規定となっており、一読してもよく分からないというのが、正直なところです。専門家の間でも、結論の妥当性自体は評価されているものの、規定が難解すぎるとの厳しい指摘があります。