TEL: 095-820-2500
[平日] 9:00~17:00
マイナーな論点ですが、かなり支払額が変わってくるので(もちろん少なく)、損保会社側から主張されることがあります。
1 問題の所在
逸失利益や将来介護費の中間利息控除の基準時については,大別して,事故時説,症状固定時説,紛争解決時説がある。
このうち,原告は,症状固定時説により請求し,被告は,事故時説が相当だとする。
問題は,理論的な整合性(後記2)と実質的な妥当性(後記3)である。以下,裁判例の傾向(後記4)もあわせて,順次検討する。
なお,この問題についての裁判実務の総括的な検討として,東京地方裁判所民事第27部(当時)浅岡千香子裁判官「損害算定における中間利息控除の基準時」財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準下巻(講演録編)2007(平成19年)』171頁以下が参照されるべきである(以下「浅岡○頁」として引用する。)。
2 理論的な問題
損害額の算定は,損害発生時を基準にして行われるのであるから,中間利息の控除も損害発生時を基準とするのが理論的に一貫する。
そこで,損害の発生時が問題となるが,この点に関し,判例は,同一事故による同一の身体傷害を理由とする損害賠償請求権は1個であるとし,かつ,不法行為と同時に遅滞に陥るとする。
被告は,この判例の立場からすると,症状固定時における現価を元本としながら,それ以前の事故時に遡って遅延損害金を付加することが理論上均衡を失するという。
しかし,そのような理解に対しては,「加害者における債務の履行遅滞を理由とする遅延損害金の発生と,被害者における利殖可能性を理由とする中間利息の控除とは,本来理論的には別の問題といえます。」(浅岡179頁)との反論がある。
むしろ,判例の立場は,抽象的には事故時に損害が発生しているが,損害の具体的な発生時期として考えると,傷害による損害は事故時に発生し,後遺障害による損害は症状固定時に発生するとしているのであって(浅岡176頁),この立場からは,中間利息控除の基準時としては,症状固定時説が合理性があるとされる(浅岡190頁)。
3 実質的な問題
各説による損害額は,基準時を遡れば遡るほど金額が少なくなり,基準時が後になればなるほど金額が多くなるという関係にある。
そこで,被害者・加害者間の公平ないしバランスという点からも,その中間となる症状固定時説が最も合理的であるとされる(浅岡190ないし191頁)。
これに対し,被告は,遅延損害金と中間利息のいわば二重取りを問題とするようである。
しかし,遅延損害金は複利式よりも少ない単利式で計算しながら,中間利息を複利式で計算して単利式よりも多く控除するのであるから,公平ないしバランスという点からは,むしろ事故時と紛争解決時の中間である症状固定時説が相当である(浅岡180頁)。とりわけ,近年の超低金利時代にあって,中間利息控除の割合について,現実には運用不可能な民事法定利率5%を相当とする最高裁判例が確定したので,利息控除の基準時の問題で全体のバランスを調整しようとの考え方があるともされる(浅岡180ないし181頁)。
なお,損害額算定の過度の複雑化を防ぐという点でも,症状固定時説が最も効率的である(浅岡191頁)。
4 裁判例
この点について,「正面から判断した最高裁判例はまだ見当た(らない)」(浅岡181ないし182頁)。
しかし,下級審裁判例は,「圧倒的多数は症状固定時説に立ってい(る)」(浅岡194頁)。
確かに,以前は,少数の事故時説をとる裁判例があったのかもしれないが,浅岡前掲論文が公刊されて以降,事故時説をとる裁判例は,ほぼなくなった。