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高齢社会の進行に伴い、判断能力の低下した人のした法律行為の有効性が問題となるケースが増えています。そんな意思能力の判断基準を検討した書面です。
1 問題の所在
(1) 原告の主張
原告の主張は,要するに,平成○○年○○月○○日の原告から被告に対する本件不動産の贈与(以下「本件贈与」という。)が,意思能力を欠いた状態でなされたとして,その無効を主張するものである。
(2) 意思能力の意義
ここに意思能力とは,「自己の行為の法的な結果を認識・判断することができる能力」(四宮和夫=能見善久『民法総則〔第8版〕』30頁)をいい,意思能力がない者がした行為は,法律には明文の規定がないが,無効と解されている(大判明治38年5月11日民録11輯706頁)。
(3) 意思能力の主張立証責任
意思能力の有無に関する主張立証責任は,意思能力の不存在を主張する無能力者側が負うものとされている。
したがって,本件でも,原告において,本件贈与の際,原告に意思能力が欠けていたことを立証しなければならない。
ところが,原告が主張立証するのは,本件贈与の前の医師の医学的意見と本件贈与の後の医師の医学的意見のみである。
それで意思無能力の立証がなされたといえるのか。
意思能力の判断基準が問題となる。
(4) 意思能力の判断基準
ここで問題となるのは,過去の契約締結時点における判断能力であり,「契約締結前の診断,契約締結後の診断,契約締結時の病状や言動,精神上の障害の特性その他の事情を考慮して,契約締結時における精神上の障害の存否・内容・程度を認定した上で,個々の事態における意思能力の有無の判断を行う必要性が生じることになる。」(澤井知子「意思能力の欠缺をめぐる裁判例と問題点」滝澤孝臣編『判例展望民事法Ⅰ』3頁)。そして,裁判例においては,具体的には,「医学上の評価を参考にすることはもとより,行為者の年齢,行為の前後の言動や状況,行為の動機・理由,行為に至る経緯,行為の内容・難易度,行為の効果の軽重,行為の意味についての理解の程度,行為時の状況等が子細に検討され,判断材料として考慮されている。」(同18頁)。
(5) 本件の検討
<略>